デフレーミングで、手ごたえのあるイノベーションを。

皆さんは「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。一般的にはデジタル技術を用いたビジネスの抜本的な変革を意味する用語ですが、その方向性や内容は必ずしも明確ではありません。キャッシュレス、API連携から、レガシー刷新までありとあらゆるものがDXの名のもとに語られており、「一体何がDXなのか?」「これまでのデジタル化と何が違うのか?」という疑問を持った方も多いと思います。DXは組織の変革や、ビジネススコープの再定義にも繋がるものですが、「どういう方向で変革を検討すればよいか」を考えるための手がかりは少なかったのです。

こうした状況の中、DXの本質を描き出せるような概念を明らかにしたいと考え、世界各地のデジタル・イノベーションの状況をつぶさに観察し、経済学・経営学の視点から一つの概念、フレームワークにまとめました。それが「デフレーミング」です。

デフレーミングとは、フレーム(枠組み)が無くなるという意味の造語です。その定義を簡潔に示すと、『伝統的なサービスや組織の「枠組み」を越えて、内部要素を組み合わせたり、カスタマイズすることで、ユーザーのニーズに応えるサービスを提供すること』です。デフレーミングには3つの要素があります。

図 デフレーミングの3つの要素
図 デフレーミングの3つの要素

第一が「分解と組み換え」です。従来の業界や事業の枠組みを超えて、その内部要素を分解し、柔軟に組み合わせ直すことです。これは企業にとっては事業ドメインの見直しを意味するもので、従来の業界・業態の垣根を越えた組み替えを行うものです。例えばAmazonは書籍のインターネット販売からスタートし、今や家電、雑貨、食品、また電子書籍や映画などのコンテンツも販売しています。さらには、クラウドサービスや在庫管理、決済などのサービスを切り出して外部に提供しています。また、中国の巨大IT企業の一つであるテンセント社は、WeChatというコミュニケーション領域のサービスに、ペイメントという金融の機能を融合し、WeChat Payという送金サービスを組み込むことで大きく成長しました。従来の業態の垣根を越えた「分解と組み換え」が加速しています。

第二の要素は「個別最適化」です。これは、画一的なものを大量に生産して販売するのではなく、ユーザーによって細かくカスタマイズしながら届けることです。ナイキ社による「Nike By You」のような製造業におけるマス・カスタマイゼーションのサービスや、一人一人の要求に同時に応える生成AIもその一例です。ビッグデータとAIの時代になったことで、膨大なユーザーのニーズを形式知化し、オーダーメイドのサービスへとつなげることが容易になりました。

そして第三の要素が「個人化」です。これは、企業に所属し、企業のブランドで働くだけでなく、フリーランスやクラウドソーシングなど、個人として働く場面が増えてきていることを指します。兼業・副業や、YouTuberやインスタグラム等で活動するインフルエンサーといった働き方も出てきています。企業はこうした個人とどうつながり、連携するかも課題です。ブロックチェーン/Web3の領域も、「個人化」の一例です。「個人化」は、デジタル化がもたらす組織運営や働き方に関する変革です。

以上の3つの要素は、いずれもデジタル化がもたらす「取引コストの削減」という共通の要因によってもたらされる変化です。デフレーミングはすでに世界中で始まっている大きな変化の潮流をとらえる概念です。そこには、革新的な顧客体験を持つサービスを実現し、利便性の高い社会を実現したり、個人個人が自らの能力や意思を存分に発揮できる社会へと導く可能性があります。

DXや新規事業創造は、フリーハンドで検討してもなかなか良いアイデアを見つけることは困難です。デフレーミングに基づくことにより、デジタル技術が社会に与える本質的影響を踏まえて、確実にアイデアの創出を行うことができます。私たちは、そうした「手ごたえのあるイノベーション」のサポートをしています。

※デフレーミングの概念は、以下の書籍として刊行され、世界中で展開されています。

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※「デフレーミング」は、高木聡一郎の登録商標です。